No 9 健康な子豚をたくさん産む母豚の腸内細菌叢は食物繊維の分解が得意
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繁殖成績が低い母豚と高い母豚では、腸内細菌叢の能力に違いがあることを発見
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成績が高い母豚の腸内細菌叢は「飼料中の食物繊維の分解能力」が高く、同じ量の飼料を摂取していても、成績が低い母豚よりも多くのエネルギーを摂取できる可能性が示されました
養豚業においては、生産性の改善が長らく重要な課題になっています。とりわけ母豚の繁殖成績、すなわち1頭の母豚が健康な子豚を何頭産むかは、農場の生産性に直結する重要な要素であり、その向上が求められています。母豚の繁殖成績は栄養・健康状態と密接に関連していますが、近年では、腸内細菌叢との関連も示唆されるようになってきました。
研究グループは、これまでに繁殖成績が高い母豚と低い母豚で腸内細菌叢の構成(細菌の種類や量)に違いがあることを明らかにしていましたが、繁殖成績と腸内細菌叢が具体的にどのように関連しているのかは明らかになっていませんでした。
本研究では、腸内細菌が持つ遺伝子の網羅的な解析を行い、腸内細菌叢の「能力」に着目することで、上記の関連メカニズムの解明を目指しました。
その結果、繁殖成績が高い母豚の腸内細菌叢は、食物繊維の分解に関わる遺伝子を多く持っていることが明らかになりました。母豚の飼料には約10%の食物繊維が含まれますが、ブタ自身はこれを消化・吸収できません。一方で、一部の腸内細菌は、食物繊維を分解・発酵して「短鎖脂肪酸」と呼ばれるブタのエネルギー源へと変換することができます。すなわち、食物繊維の分解能力が高い腸内細菌叢は、母豚にとって有用な短鎖脂肪酸をより多く作り出すことができると考えられます。
本研究では、短鎖脂肪酸の濃度も測定し、実際に繁殖成績の高い母豚の腸内ではより多くの短鎖脂肪酸が作られていることも確かめました。また、短鎖脂肪酸には免疫機能の調節作用や、ストレスを緩和する作用があることもわかっています。以上のことから、繁殖成績の高い母豚の腸内細菌叢は、より多くの短鎖脂肪酸を作り出し、母豚の栄養や健康状態を維持・向上することを通して、繁殖成績の向上に貢献している可能性が考えられました。
本研究の成果は、養豚の生産性向上に向けて「腸内細菌」という新たな着眼点を提案するものです。すなわち、母豚の腸内環境を改善し、食物繊維分解能力を高めることで、繁殖成績を向上させる新たな技術開発に繋がる可能性を秘めています。
現在、研究グループは、母豚の腸内環境を改善する飼料素材の探索にも取り組んでおり、近い将来、養豚現場での実用的な技術への応用が期待されます。
研究成果は、Microorganismsに掲載されました。
論文タイトル:Whole-Genome Metagenomic Analysis of Functional Profiles in the Fecal Microbiome of Farmed Sows with Different Reproductive Performances
(異なる生殖能力を持つ飼育豚の糞便マイクロバイオームの機能プロファイルの全ゲノムメタゲノム解析)
Microorganisms 2024 Oct 29;12(11):2180. doi: 10.3390/microorganisms12112180.
PMID: 39597569
出典:2024.12.4 摂南大学 ニュースリリース
健康な子豚をたくさん産む母豚の腸内細菌叢は 食物繊維の分解が得意 -ブタでも“腸活”が鍵? 養豚業への応用に期待-
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