No 55 最近のイヌに関するプレスリリース

特発性膵炎治療薬、変形性関節症遺伝子治療、ステージ1腫瘍の高感度検出、デジタル聴診器とAIによる無症状粘液腫性僧帽弁疾患の段階判定
M Tsuda 2025.06.19
誰でも
***
  • Lamassu Biotech、NIHから "One Health"助成金を獲得

  • CureLab Veterinary、イヌ変形性関節症に対するElenaVet™遺伝子治療の90%成功率を発表

  • Calviri社、犬のステージ1腫瘍の高感度検出を実証する結果を発表

  • デジタル聴診器で犬の心雑音を聴診し、AIで無症状粘液腫性僧帽弁疾患の段階を判定する ~ Univ Cambridge

***

1. Lamassu Biotech、NIHから "One Health"助成金を獲得

Animal Health News Ver2、No53で紹介したイヌ特発性膵炎治療薬RABI-767を開発しているLamassu Biotechが、NIHから270万ドルの"One Health"助成金を獲得した。
RABI-767 はメイヨー クリニックで開発され、顕著な前臨床効果が実証されている。
犬の臨床試験の進捗状況に関する詳細は、近日中に発表される予定である。

2. CureLab Veterinary、イヌ変形性関節症に対するElenaVet™遺伝子治療の90%成功率を発表

CureLab Veterinary (Boston, MA)は、イヌ変形性関節症(OA)治療におけるp62プラスミド遺伝子治療薬ElenaVet™のパイロット試験結果を発表した。週1回の筋肉内注射(10週間)を受けた17頭の犬で、痛みの重症度スコア(PSS)が5.25から3.25、痛みによる生活障害スコア(PIS)が7.0から3.27に改善。90%の犬が事前に定義した「治療成功基準」を達成し、副作用は確認されなかった。

主な結果

  • レントゲン写真でOAと確認された、飼い犬17頭に、10週間にわたり週1回、1 mgのElenaVet™を筋肉内投与した。

  • イヌ簡易疼痛評価尺度(CBPI)における疼痛重症度スコア(PSS)は5.25から3.25に低下し、疼痛干渉スコア(PIS)は7.0から3.27に低下し。

  • 90%の犬が、本研究で事前に定義された「治療成功」基準(PSSが1ポイント以上低下、PISが2ポイント以上低下)を満たした。生活の質(QOL)の評価が「良好/優良」となった犬は1頭から12頭に増加した。

  • 飼い主が最初に気付いた改善は 2~4 週間以内に発生し、スコアは 6 週目までに横ばいになった。

  • 治療中、嘔吐、下痢、発作、検査値異常などの重大な有害事象は報告されなかった。

ElenaVet™の特徴

  • 筋肉細胞にSQSTM1/p62タンパク質を作らせる環状DNAプラスミドを用いる低用量治療

  • 抗炎症経路を多面的に抑制

  • NSAIDs(非ステロイド抗炎症薬)に伴う胃腸障害や臓器毒性リスクの回避が可能

  • 複雑な生物学的製剤の製造やコールドチェーンは不要

広く満たされていないニーズへの対応

変形性関節症は、成犬の5頭に1頭が罹患していると推定されている。標準的なNSAIDsの慢性的な使用は、血圧の上昇、胃潰瘍、そして場合によっては腎臓や肝臓傷害を引き起こす可能性がある。ElenaVet™は、投与頻度の最適化試験が完了した後、より安全でコンプライアンスに配慮した代替療法を提供することを目指している。月1回または「必要に応じて」の注射による投与が可能になる予定である。

次のステップ

  • 投与量範囲、効果の持続性、および長期安全性を評価するためのピボタル試験プロトコルを最終決定するため、米国農務省(USDA)獣医生物学センター(CVB)との協議を開始

  • 資金調達次第で2〜3年以内の承認申請を目指す

pilot studyの成績は、Frontiers in Veterinary Scienceに掲載された。
論文タイトル:Efficacy of P62-expressing plasmid in treatment of canine osteoarthritis pain: a pilot study
(イヌ変形性関節症の痛みの治療におけるP62発現プラスミドの有効性:パイロットスタディ)
Front Vet Sci (IF: 2.25; Q1).  06 June 2025. doi: 10.3389/fvets.2025.1519881

この研究にはいくつかの制限がある:動物数の少なさ、長期的な追跡調査の欠如、および結果はCBPIという1つのパラメーターに限定されている。
今後の研究では、p62プラスミドのOAに対する抗炎症効果のメカニズムについても検討する必要がある。

---------------------------------

ElenaVet®は、体の抗がん免疫反応を強化する遺伝子療法である。

CureLab Veterinaryの比較医学研究において、乳がんを患う11頭の犬のうち10頭を救命し、メラノーマを患う犬における転移プロセスを阻止または遅延させた。猫においても同様の結果が観察された。
ElenaVetは、がんだけでなく、変形性関節症、炎症性腸疾患(IBD)、慢性皮膚疾患、および加齢に伴う機能低下など、他の重大な疾患を引き起こす慢性炎症を軽減する。我々の目標は、がんから始まり、これらの疾患を一つずつ解決していくことである。

【関連文献】

p62-DNAをコードするプラスミドは腫瘍のグレードを元に戻し、腫瘍間質を変化させ、抗癌免疫を強化する
p62-DNA-encoding plasmid reverts tumor grade, changes tumor stroma, and enhances anticancer immunity
Aging (Albany NY) (IF: 5.68; Q2). 2019 Nov 21;11(22):10711-10722. doi: 10.18632/aging.102486.
PMID: 31754084 PMCID: PMC6914433

p62/SQSTM1タンパクは、がん細胞および腫瘍間質細胞におけるその役割が精力的に研究されている。もともとp62をコードするプラスミドは、がん細胞で過剰発現するp62/SQSTM1タンパクに対する適応免疫応答を誘発するDNAワクチンとして提案された。しかし、イヌの自然発症乳がんに対するp62プラスミド治療が有益であることが報告された後、ヒトとは異なり、ほとんどの悪性イヌ乳がんではp62の発現が非常に低いか全くないことが判明した。このことは、抗p62適応免疫の誘発がp62をコードするプラスミドの唯一の効果ではない可能性を示唆している。

先行研究では、p62 DNA治療が悪性病変の組織病理学的特徴に劇的な影響を与え、元の固形腫瘍が炎症を伴う線維性結合組織の厚い帯に囲まれた多葉性新生物として現れることが既に示されている。この組織にはマクロファージ、CD3+腫瘍浸潤Tリンパ球(TILs)、形質細胞が含まれていた。これらのデータは、p62プラスミドが抗がん免疫応答に有利な方法で腫瘍微小環境(TME)を変化させることができるかという疑問を提起している。

ヒトと同様に、イヌの自然発症乳がんも形態学的および生物学的に多様である。単純癌と複合癌が最も一般的なタイプであり、固形乳腺癌や管状乳腺癌はヒト乳腺癌と組織学的・分子的に類似性を示す。イヌの乳がんとヒトの前立腺がんの両方で、TILsの数が悪性病変よりも良性病変で高いと報告されている。したがって、イヌモデルでのがん治療効果の試験は、貴重な比較腫瘍学の知見を提供する可能性がある。本研究では、p62 DNAの抗腫瘍活性を、単純性乳がんのイヌコホートで評価した。

結果と考察(イヌの成績を中心に)

本研究では、単純性乳がんの6頭のイヌに対し、p62 DNAの抗腫瘍活性が評価された。この新しい試験は、以前の観察を裏付けるものであり、p62 DNAで治療されたイヌにおいて、腫瘍の完全な根絶には至らないものの、新生物塊のサイズが著しく減少することを示した。これは未治療のイヌや、シャムpcDNA3.1プラスミドを注射されたイヌでは観察されなかった。

詳細な検査により、p62 DNAが元の腫瘍に炎症性/免疫細胞の顕著な浸潤を誘導することが明らかになった。p62 DNA注射後に観察された組織病理学的変化は以下のとおりである。

  • 腫瘍サイズの縮小

  • 腫瘍組織型の変化:2例では、腫瘍の組織型が単純高悪性病変から、より攻撃性の低い複合癌へと変化した。これは、病理学的なグレードの改善を示唆する。

  • 長期的な良好な経過:治療の最も重要な成果の一つは、p62で治療されたすべての症例が、手術(乳腺切除術)から4年後も腫瘍および転移がなく、良好なQOLを維持していることである。これは、p62 DNA治療が短期的な腫瘍縮小だけでなく、長期的な疾患コントロールに寄与する可能性を示しており、再発予防の観点からも非常に有望な結果と考えられる。

結論

限られたサンプルサイズであり、異なる年齢や犬種にわたるイヌへの代表性を評価するにはさらなる大規模な臨床研究が必要であるという限界はあるものの、この予備的な調査は、p62 DNA治療が腫瘍間質を再プログラムし、腫瘍の悪性度を逆転させる可能性を示唆している。このプラスミドは、免疫応答を介して直接的または間接的に作用する(化学療法や免疫療法など)がん治療のアジュバントとして使用できる可能性があり、今後の研究に期待が持たれる。

3. Calviri社、犬のステージ1腫瘍の高感度検出を実証する結果を発表

Calviri. Inc. (Phoenix,, AZ)は犬とヒト向けのがん早期診断法やワクチン開発を進めるバイオ企業。

  • 犬の5大がんのステージ1を高感度に検出
    新たに開発した診断法「StageOne Plus」により、犬の5大主要がん(リンパ腫、血管肉腫、骨肉腫、肥満細胞腫、軟部組織肉腫)のステージ1段階での高感度検出に成功。

  • 腫瘍の発生組織も特定可能
    がんの存在だけでなく、がんが発生している組織も正確に特定できる。

  • 早期発見の重要性
    犬はヒトに比べ腫瘍の進行が速く、進行期での治療は選択肢が限られ、治療成功率も低下する。ステージ1での早期診断が治療成績向上と医療費抑制に直結する。

  • 技術の特徴:血中抗体レパートリーを活用
    血液中の抗体レパートリーを独自のペプチドチップにより解析。半導体産業のフォトリソグラフィ技術とペプチド合成を融合した自社製造のチップを使用。少量の血液のみで検査可能。

  • 対象は5歳以上の犬の健康診断を想定
    犬のがん死亡率は高齢犬で約50%を占めるため、年1回の健康診断での利用を推奨。

  • 試験導入と今後の展開
    4年間の検体収集を経て開発。2025年8月より一部獣医クリニックで試験導入開始し、順次拡大予定。

研究成果は、American Journal of Veterinary Researchに掲載された。
論文タイトル:High-sensitivity multicancer detection of stage 1 cancer in dogs
Am J Vet Res (IF: 1.16; Q3). 2025 Jun 13:1-10. doi: 10.2460/ajvr.25.02.0068.
PMID: 40513713

4. デジタル聴診器で犬の心雑音を聴診し、AIで無症状粘液腫性僧帽弁疾患の段階を判定する ~ Univ Cambridge

手法

  • 元モデル:まず、人間の心音データ(約1,000人分)を使用し、心雑音の有無を検出するアルゴリズムをトレーニング

  • 犬への応用:英国の4つの獣医専門施設で、約800頭の犬にデジタル聴診器(3M Littmann 3200 または Eko DUO)を用いた心音記録とエコー検査を行い、アルゴリズムを適合させた 

精度

  • 感度:心雑音の検出精度は 90% と、人間の心臓専門医と同等レベル 

  • グレード分類:専門獣医と比較して半数以上のケースで一致し、90%は専門医と±1グレード以内の評価 

インパクト

  • 医療現場での応用:小型犬に多い僧帽弁疾患など、心臓病を早期に検出できれば、投薬による寿命延伸が可能

  • 一次診療への貢献:獣医の聴診技術に依存せず、一般のクリニックでも導入できる手軽で高性能なスクリーニングツールとして期待される。

研究成果は、Journal of Veterinary Internal Medicineに掲載された。
論文タイトル:A machine-learning algorithm to grade heart murmurs and stage preclinical myxomatous mitral valve disease in dogs
(犬の心雑音を等級分けし、無症状粘液腫性僧帽弁疾患の段階を判定するための機械学習アルゴリズム)
J Vet Intern Med (IF: 3.33; Q1). 2024 Nov-Dec;38(6):2994-3004. doi: 10.1111/jvim.17224.
PMID: 39431513 PMCID: PMC11586535

出典:AI algorithm accurately detects heart disease in dogs
2024.10.24 University of Cambridge

【関連文献】Seoul National Universityからの報告

デジタル聴診器の記録を使用した、犬の粘液腫性僧帽弁疾患患者における僧帽弁逆流の重症度の深層学習ベースの評価
Deep learning-based evaluation of the severity of mitral regurgitation in canine myxomatous mitral valve disease patients using digital stethoscope recordings
BMC Vet Res (IF: 1.83; Q1). 2025 May 8;21(1):326. doi: 10.1186/s12917-025-04802-z.
PMID: 40336065 PMCID: PMC12060408

心エコー検査は診断のゴールドスタンダードであるが、費用がかかり、一貫した適用には相当の臨床研修が必要となる。ディープラーニングモデルは、デジタル聴診器記録を用いた僧帽弁逆流症(MR)評価に革新的なアプローチを提供し、早期スクリーニングと正確な予測を可能にする。

本研究では、MR評価における従来の方法に代わる客観的な代替手段として、畳み込みニューラルネットワーク6(CNN6)の有効性を評価した。
米国獣医内科学会(ACOEM)のガイドラインに基づいて分類されたMMVDの犬460頭を対象とした。心音図信号はデジタル聴診器( WP-100)を用いて記録され、深層モデルCNN6、パッチミックス・オーディオ・スペクトログラム・トランスフォーマー(PaSST)、残差ニューラルネットワーク(ResNET38)を用いて解析された。これらのモデルは、僧帽弁閉鎖不全症心エコー検査(Mitral INsufficiency Echocardiographic; MINE)スコアに基づいてMRの重症度を軽度、中等度、重度に分類するように学習された。モデルの有効性を評価するために、パフォーマンス指標が算出された。

結果:CNN6-Fbankモデルは、精度94.12% [95%信頼区間(CI):94.11-93.12]、特異度97.30% (95% CI: 97.30-97.34)、感度94.12% (95% CI:  93.74-94.50)、精度92.63% (95% CI: 92.29-92.97)、F1スコア93.32% (95% CI: 93.05-93.59)を達成し、全体的にPaSSTとResNet38モデルを上回り、ほとんどの指標で堅牢な性能を示した。

結論:深層学習モデル、特にCNN6は、デジタル聴診器の記録を用いてMMVDを患う犬のMRの重症度を効果的に評価できる。このアプローチは、心エコー検査の迅速で非侵襲的かつ信頼性の高い補完手段を提供し、診断と治療結果の向上に寄与する可能性がある。今後の研究では、この技術のより広範な臨床的検証とリアルタイムでの応用への焦点を当てるべきである。

無料で「Animal Health News Ver2」をメールでお届けします。コンテンツを見逃さず、読者限定記事も受け取れます。

すでに登録済みの方は こちら

誰でも
No 54 てんかん(ヒトのてんかんと治療薬の概況、translational、神経炎症の役割)
誰でも
No 53 プレスリリース4題
誰でも
No 52 イヌ筋骨格系5題
誰でも
No 51 プレスリリース4件
誰でも
No 50 企業動向(4件)、米国でのブロイラーの繁殖率低下の予測
誰でも
No 49  MabGenesisがVirbacと提携;てんかんでのOne Health;飼い犬が環...
誰でも
No 48 ブラベクト(MSD)、GoogleのAIがプライマリーケア医を凌駕する可能性
誰でも
No 47 アトピー、重症熱性血小板減少症候群