No 61 世界初の遺伝子編集されたポロ競技用馬の誕生
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世界初の遺伝子編集されたポロ競技用馬誕生
アルゼンチンのバイオテック企業Kheiron Biotechが、名馬「Polo Pureza(ポロ・ピュレーザ)」のクローンにCRISPRで筋肉成長を促す遺伝子編集を施した5頭の子馬を誕生させた。 -
「遺伝子ドーピング」として国内競技団体が競技への参加を禁じる
アルゼンチン・ポロ協会(AAP)が、これらのGE馬を公式・非公式の試合において使用不可とする声明を発表。また、登録も見送られている。 -
競技コミュニティ内の強い抵抗と懸念
多くの有力ブリーダーたちが、「遺伝子編集は競技の公平性やブリーディングの伝統を損なう」、「国際輸出にも重大な影響を与える」として、登録拒否や論争を呼ぶ声明に署名。 -
Kheironは、科学的正当性と未来への期待を主張
CRISPRによる編集は自然に存在する遺伝子の波及を短縮させる科学的で精密な手法だと説明し、GMOや遺伝子ドーピングではないと主張。またコミュニティの理解を得るため教育を続ける方針。 -
商業化は一時停止中。将来の活用は不透明
現時点では商業的展開は凍結されており、ブリーダー協会による数年の観察期間を経て判断される見通し。Kheironの科学者は「理解を進める努力を続ける」と語る。
アルゼンチンを拠点とするバイオテック企業Kheiron Biotechが、世界で初めて遺伝子編集(GE)されたポロ競技用馬の誕生に成功した。5頭の子馬は、名馬「Polo Pureza(ポロ・ピュレーザ)」のクローンであり、CRISPR技術を用いて、筋肉成長を抑制するマイオスタチン遺伝子の発現を抑える編集が加えられた。これにより爆発的なスピードを有する筋繊維を増加させ、次世代のスプリンターとしての能力を持たせることが狙いである。
一方で、この技術に対しポロ界は慎重である。アルゼンチン・ポロ協会(AAP)は公式声明で、GE馬を公認・非公認の試合で使用することを「遺伝子ドーピング」として断固拒否し、当面は登録しないと明言した。遺伝子編集による競技参加が、スポーツの公平性と伝統を損ねるとの懸念からである。
また、アルゼンチンの著名ブリーダーや関係者も、登録拒否や輸出への影響を懸念し、多数が反対の署名に参加した。ただし、Kheiron側は、今回の編集方法は特定の自然な遺伝子の選択と移植であり、GMO(遺伝子組み換え生物)ではないとし、科学的に合法的かつ自然に近い選択を短縮しただけだと主張している。同社の科学ディレクターであるGabriel Vicheraは「自然界ですら起こりうる編集を、人為的に早めただけ」とその立場を明かしており、理解を得るための働きかけを続ける意向である
ただ、現時点では商業化に踏み出せず、AAPおよびブリーダー協会が数年にわたって観察を続ける予定である。Kheironは、すでに興味を示す潜在的な顧客からの問い合わせがあったと語るが、公式な展開は保留中だ。関係者の中には「これによってブリーダーらの存在と芸術性が奪われる」と慎重な立場を示す声もあるが、他方で、科学と技術の進歩は止められないとして受け入れを期待する声もある。
Kheironはさらに、豚の臓器を人間の移植に適応させる研究や、牛に高タンパク質や耐暑性を持たせる遺伝子編集も並行して研究しており、GE技術の応用範囲を広げている。しかしポロ界では今、それが技術革新か倫理に反する操作か、その境界線を巡る議論が巻き起こっている。技術によって本当に優れた馬が誕生するかどうかは時間が証明することであり、今後の展開と議論の行方が注目される。
出典
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World’s first gene-edited horses are shaking up the genteel sport of polo
2025.8.30 Reuters -
Made for Speed - Genetically Edited Polo Ponies Draw Objections
Equine Info Exchange、2025.8.31 アクセス
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