No 60 牛関係3題(ワクチン、繁殖)
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新しい口蹄疫ワクチンが牛の試験で完全な防御効果を発揮 ~ Tiba
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黒毛和牛の腸内細菌叢から繁殖効率を早期予測-人工授精5ヵ月以上前の腸内環境が成績を左右する ~ 九州大、理研など
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牛におけるMycoplasma bovisのlipoate protein ligaseおよび dihydrolipoamide dehydrogenaseタンパクを標的としたマルチエピトープmRNAワクチンの免疫情報学的開発
1. 新しい口蹄疫ワクチンが牛の試験で完全な防御効果を発揮 ~ Tiba
人間および動物の健康のための次世代RNA医薬品開発企業であるTiba Biotech (Cambridge, Mass.)は、牛の口蹄疫(FMD)に対する新規ワクチンの有効性を評価したチャレンジ試験の結果を発表した。この試験では、体液性免疫反応と、ウイルスに直接曝露した際の予防効果の両方を評価した。ワクチン接種を受けた牛はすべて完全に予防効果があり、ウイルス排出や副作用の兆候は見られなかった。
Tibaの独自技術であるRNABLプラットフォームは、免疫反応を引き起こすRNAを運搬した後、自然に分解される生分解性ナノ粒子を形成する点が革新的な特徴である。 現在のmRNAデリバリー技術とは異なり、Tibaのワクチンは標準的な冷蔵温度で長期保存可能であり、室温でも少なくとも1ヵ月間保存可能である。これは家畜応用における重要な利点である。このワクチンは、商業利用承認を受ける前に、動物衛生規制当局による厳格な評価プロセスを経る必要がある。
出典:Tiba's Novel Foot-and-Mouth Disease Vaccine Provides Full Protection in Cattle Study
2025.8.4 PR Newswire
2. 黒毛和種繁殖メス牛の腸内細菌叢から繁殖効率を早期予測-人工授精5ヵ月以上前の腸内環境が成績を左右する ~ 九州大、理研など
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産業動物である牛において、機械学習および因果推論の結果、Erysipelotrichaceae科とClostridium sensu stricto 1属、Family XIII AD3011 group属、クレアチニン分解経路(PWY-4722)が人工授精回数の増加に影響する可能性が示された。
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さらに、人工授精の5ヵ月以上前の細菌叢から、将来の人工授精回数を予測できる可能性が推定された。
対象:黒毛和種未経産メス牛について、人工授精に要した回数が少なかった群と多かった群を比較。
実験方法
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糞中細菌叢を150日齢(人工授精の5ヵ月以上前)と300日齢(人工授精直前)で網羅解析。
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機械学習と因果推論(実験・観察データから得られた情報を基に、データ間の因果効果を統計的に推定していく手法)を適用。
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Pathway解析による代謝経路予測も実施。
結果
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150日齢の時点で、Erysipelotrichaceae科、Clostridium sensu stricto 1属、Family XIII AD3011 group属の存在が人工授精回数の増加(=受胎の遅れ)に関与。
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クレアチニン分解経路(PWY-4722)が人工授精回数の増加に関連。
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300日齢よりも150日齢の細菌叢の方が繁殖成績の予測に有効。
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短期間の好熱菌プロバイオティクス投与の影響も評価。
統計的因果推論の結果、150日齢における糞中のErysipelotrichaceae科、Clostridium sensu stricto1属、Family XIII AD 3011 group 属、クレアチニンを分解する代謝経路(PWY-4722)が人工授精回数の増加に影響することが示された。一方で300日齢では人工授精回数と関係性が見られる細菌叢や代謝経路は必ずしも存在しなかったことから、150日齢の糞中細菌叢が将来の繁殖成績に及ぼす影響がより強いことが推定された。
研究成果は、Animal Microbiomeに掲載された。
論文タイトル:Causal estimation of the relationship between reproductive performance and the fecal bacteriome in cattle
(牛の繁殖成績と糞便細菌叢の関係の因果推定)
Anim Microbiome. 2025 Mar 28;7(1):33. doi: 10.1186/s42523-025-00396-x.
PMID: 40155978
出典:家畜の繁殖効率に影響する腸内細菌叢を予測する~繁殖成績に負の影響を与える因果構造の計算科学的検証~
2025.4.10 九州大学 プレスリリース
3. 牛におけるMycoplasma bovisのlipoate protein ligaseおよび dihydrolipoamide dehydrogenaseタンパクを標的としたマルチエピトープmRNAワクチンの免疫情報学的開発
論文タイトル:Immunoinformatic development of a multiepitope messenger RNA vaccine targeting lipoate protein ligase and dihydrolipoamide dehydrogenase proteins of Mycoplasma bovis in cattle
Vet World (IF: 1.55; Q2). 2025 Jun;18(6):1675-1684. doi: 10.14202/vetworld.2025.1675-1684.
PMID: 4068917 PMCID: PMC12269942
Mycoplasma bovisは、牛に呼吸器疾患、乳房炎、繁殖障害などを引き起こし、畜産業に大きな経済的損失をもたらす重要な病原体である。しかし、抗菌薬に対する耐性菌の増加や、効果的な市販ワクチンの欠如により、その制御は難しい状況にある。
本研究では、上記の課題を解決するため、免疫インフォマティクスと分子モデリングというコンピュータシミュレーション手法を使い、M. bovisに対する多エピトープmRNAワクチンを開発することを目指した。ワクチン開発の標的として、M. bovisの生存と病原性にとって重要な役割を果たすLplAとPdhDという2つのタンパクを選定した。これらは細菌の表面に存在し、牛の免疫システムによって認識されやすいと考えられている。
開発されたワクチン候補は、これらのタンパクから特定された、免疫反応を引き起こす16個のエピトープを複数連結したmRNAワクチンである。免疫刺激を高めるためのアジュバント(RpfE)や、mRNAの安定性と翻訳効率を向上させるための特殊な配列も組み込んだ。
コンピュータ上での詳細な解析の結果、このワクチン候補は非常に高い抗原性を示し、非アレルギー性、非毒性であると予測された。また、牛の重要な免疫受容体であるTLR4に強く結合することが示され、分子動力学シミュレーションによってその結合の安定性も確認された。さらに、牛の細胞内で効率よくタンパクが作られるように、遺伝子配列の最適化も行われ、mRNA自体の構造的安定性も良好であることが示された。
この研究は、M. bovis感染症を制御するための有望なワクチン戦略を提示しているが、これらの結果はあくまでコンピュータシミュレーションによる予測である。そのため、実際にin vitroやin vivoでの有効性と安全性を検証が不可欠である。
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