No 53 プレスリリース4題

皮膚の保湿やかゆみを改善する硫酸化ヘミセルロース、イヌ急性膵炎治療用のリパーゼ阻害薬、安定な(off the shelf)乳由来エクソソームなどを紹介します。
M Tsuda 2025.05.31
誰でも
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  • 木質資源由来硫酸化ヘミセルロースが乾燥肌の症状とかゆみを改善する ~ 順天堂大、王子ファーマ

  • 小動物臨床のための治療薬検索データベース「犬と猫の治療薬ガイド」、5月27日より提供開始 ~ 株式会社EDUWARD Press

  • Hill's Pet Nutritionとハーバード大学T.H. Chan公衆衛生大学院の研究者が、ペットマイクロバイオームの科学とイノベーションの発展に向けて協力を深める

  • Lamassu BiotechとOhio State Universityは共同で、急性膵炎をターゲットとする新規治療薬RABI-767の開発を進める

  • 安定な乳由来エクソソームの応用

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1. 木質資源由来硫酸化ヘミセルロースが乾燥肌の症状とかゆみを改善する ~ 順天堂大、王子ファーマ

  • 硫酸化ヘミセルロース(OJI-204)が乾燥肌モデルマウスのバリア機能を改善

  • OJI-204が乾燥肌モデルマウスの自発的及び機械的かゆみも軽減

  • OJI-204が乾燥肌のかゆみの新規治療薬となる可能性が示唆された

ヘパリン類似物質は保湿作用や血液循環促進作用、抗炎症作用、血液凝固阻止作用があり、様々な疾患の治療に使用される。ヘパリン類似物質は、ブタやウシなどの家畜から作られているが、人畜共通感染症のリスク低減、環境負荷の低減、トレーサビリティ向上などの理由から、今後は植物由来原料に代わると予想されている。

王子ファーマは木材の成分の約25%を占めるヘミセルロースの有効利用を探る中で、硫酸化ヘミセルロースOJI-204の合成に成功した。
硫酸化ヘミセルロースは硫酸化多糖類ファミリーに属し、ヘパリン類似物質と同様に、ペントサンポリ硫酸ナトリウムを含み、抗凝固作用と抗炎症作用を示すことが報告されている。
そこで本研究では、乾燥肌モデルマウスを用いて、皮膚バリア機能およびかゆみに対する効果を検討した。

乾燥肌モデルマウスに、溶媒、0.3%ヘパリン類似物質、3%あるいは10%OJI-204を1日2回塗布し、経時的に皮膚バリア機能の指標である経皮水分蒸散量(TEWL)と角層水分量(SC Hydration)を測定した。また、-1、7日目に自発的かゆみ行動を、8日目に機械的かゆみ過敏度合いを測定した。
その結果、溶媒群は皮膚の乾燥度が経時的に高くなるのに対し、0.3%ヘパリン類似物質(陽性対照群)、3%および10% OJI-204群は有意に乾燥度が軽減し、溶媒群と比較してTEWLも有意に低下した。さらに3% OJI-204群は溶媒群と比較して有意に自発的かゆみ行動を抑制した。また、OJI-204群は溶媒群と比較して有意に機械的かゆみ(alloknesis;刺激に対する皮膚の感覚異常の一種)も抑制した。
以上の結果より、OJI-204は乾燥肌において保湿効果、自発的・機械的かゆみを改善することが示され、ヘパリン類似物質の代替となり得ることが示唆された。

図1:バリア機能の評価

図1:バリア機能の評価

図2:自発的及び機械的かゆみ行動回数の評価

図2:自発的及び機械的かゆみ行動回数の評価

研究成果は、Biomedicinesに掲載された。
論文タイトル:Topical Application of OJI-204 Alleviates Skin Dryness, Dry Skin-Induced Itch, and Mechanical Alloknesis
(OJI-204局所塗布は、皮膚の乾燥、乾燥によるかゆみ、およびalloknesisを軽減する)
Biomedicines (IF: 4.72; Q1). 2025 Feb 21;13(3):556. doi: 10.3390/biomedicines13030556.
PMID: 40149533 PMCID: PMC11940121

2. 小動物臨床のための治療薬検索データベース「犬と猫の治療薬ガイド」、5月27日より提供開始 ~ 株式会社EDUWARD Press

株式会社EDUWARD Press(東京都町田市)は、2025年5月27日より、小動物の臨床現場向け治療薬検索データベース『犬と猫の治療薬ガイド』の提供を開始した。『犬と猫の治療ガイド』の定期購読者は、本サービスを無料で利用できる。

【本サービスの特徴】

  •  豊富な掲載薬剤数
    収録薬品数約700項目、製品数 7,900項目以上。犬と猫に使用される主要な治療薬を網羅し、薬効群・有効成分・商品名など多様な軸からアクセス可能。

  • エビデンスベースの情報提供
    最新の学術論文やガイドライン、添付文書などに基づいて記載内容を構成し、出典を明示。臨床判断に信頼性をもたらす。

  • 日本の獣医療を牽引するアカデミアによる執筆・監修
    臨床現場の第一線で活躍する獣医師および研究者が執筆・監修を担当。現場視点とエビデンスを両立させている。

  •  直感的なユーザーインターフェース
    診療中の使用を想定し、モバイル操作にも対応したシンプルな検索機能。成分名、製品名、症状など、幅広いキーワード検索から知りたい情報に直接アクセスできる。

  • 臨床現場に寄り添う便利機能
    よく使う薬品はお気に入り・閲覧履歴ですぐに確認。便利なメモ機能で、まとめたい内容をフォルダ毎に、自分仕様にカスタマイズができる。

【監修/執筆者】 
井坂 光宏(酪農学園大学)、水野 拓也(山口大学)、中村 達朗(酪農学園大学)、伊賀瀬 雅也(山口大学)、五十嵐 寛高(麻布大学)、田村 純(北海道大学)、塚本 篤士(麻布大学)、茂木 朋貴(東京農工大学)

3. Hill's Pet Nutritionとハーバード大学T.H. Chan公衆衛生大学院の研究者が、ペットマイクロバイオームの科学とイノベーションの発展に向けて協力を深める

両者は協力して、ワンヘルスマイクロバイオームリソース(OHMR)向けの包括的な新しいウェブポータルを立ち上げることを発表した。

このウェブポータルは、学術界と産業界を横断する中心的なリソースとして機能し、ペットの健康維持と疾患の理解におけるマイクロバイオームの役割を研究するための対話を促進し、標準化されたプロトコルや計算ツールなどの貴重なリソースを提供する。また、多様な集団統計と臨床診断を網羅する2,000以上のサンプルを収録した、ペット腸内マイクロバイオーム研究のための初の集中リポジトリも提供する。

4. Lamassu BiotechとOhio State Universityは共同で、急性膵炎をターゲットとする新規治療薬RABI-767の開発を進める

急性膵炎は、米国ではヒトで年間33万件以上の入院を引き起こし、犬でも180万頭近くが罹患している。この新しい共同研究は、ヒトと獣医学のギャップを埋め、両者の治療戦略を最適化することを目的とした研究を推進するものである。急性膵炎は犬にも人にも類似点が多く、効果的な治療法がないことから、犬におけるこの疾患の効果的な管理で得られる知識は、最終的には人にも有益であり、その逆もまた然りである。

予定されているRABI-767の動物実験では、その一例として、この疾患の管理により効果的であることが証明される可能性のあるさまざまな投与スケジュールの評価が行われる。近い将来、犬を対象とした試験が実施される予定である。

この共同研究は、同大学の獣医学部で行われる、犬の自然発症急性膵炎(CAP)に対するRABI-767の有効性を評価するコンパニオン臨床試験をサポートする。これらの臨床試験は、その後のヒト臨床試験に役立つ投与戦略の改良にも役立つ可能性がある。

この発表は、Lamassu BiotechがRABI-767をベースとした投与が容易な犬専用薬の世界的な開発を管理する新部門Lamassu Petsを立ち上げたことに伴うものである。

Lamassu Biotechはメイヨークリニックと共同でRABI-767の開発を行った。RABI-767は、前臨床モデルにおいて重症急性膵炎に伴う死亡率と罹患率を有意に減少させる可能性を示し、イヌとヒト(第1相試験)の両方で安全性が評価されている。

Lamassuの新しいアプローチは、低分子リパーゼ阻害薬であるRABI-767を膵臓の周囲に直接注射を行うもので、症状の緩和、合併症の軽減、臓器不全からの保護により、急性膵炎の転帰を改善することを目的としている。また、Lamassu Biotech社は、現在第2相段階にあるヒト臨床試験においてArrivo Bioventureと提携している。

RABI-767のイヌを対象とした臨床試験の詳細については、近日中に発表する予定である。

5. 安定な乳由来エクソソームの応用

バージニア工科大学(VTC)のFralin生物医学研究所の科学者たちは、凍結乾燥工程を改良することで、牛乳由来のエクソソームを室温で最長1年間安定に保つ凍結乾燥プロセスを考案した。

生乳1クォート(約1.5 L)には数兆個ものエクソソームが含まれている。これらの生物学的送達媒体は、薬剤が病変部位や損傷部位に到達するまで、体内の過酷な腸内環境による分解や、血液を介した免疫反応による標的化から薬剤を保護する可能性を示している。

 Robert Gourdie教授の研究チームは、牛乳からエクソソームを大量に抽出する技術を開発したが、従来の冷凍保存では数日しか安定性が保てず、保存や輸送に課題があった。

研究チームは彼らが開発した創傷治癒ペプチドを投与する方法を模索し、高度な濾過技術を用いて牛乳からエクソソームを抽出するプロセスを開発し、さらに凍結乾燥によりエクソソームを室温で最大1年間安定して保存できる方法を開発した。
トリプトファンを添加することで、エクソソームの構造と生理活性を維持し、長期保存中の安定性が向上することが確認された。

この技術により、エクソソームをカプセル化して経口投与することや、冷蔵・冷凍の必要がない輸送が可能となり、医薬品の供給チェーンの簡素化とコスト削減が期待される。

Gourdie教授は、エクソソーム技術を実用化するためにスタートアップ「Tiny Cargo」を設立し、放射線被曝治療やがん患者の副作用軽減などへの応用を進めている。

https://www.tinycargo.com/pharmaceutical

https://www.tinycargo.com/pharmaceutical

研究成果は、Journal of Biological Engineeringに掲載された。
論文タイトル:Stabilizing milk-derived extracellular vesicles (mEVs) through lyophilization: a novel trehalose and tryptophan formulation for maintaining structure and Bioactivity during long-term storage
(凍結乾燥による乳由来細胞外小胞(mEV)の安定化:長期保存中の構造と生理活性を維持するための新規トレハロースおよびトリプトファン処方の開発)
J Biol Eng (IF: 4.36; Q2). 2025 Jan 13;19(1):4. doi: 10.1186/s13036-024-00470-z.
PMID: 39806456 PMCID: PMC11727230

出典:‘Milestone’ discovery may unlock the true biomedical might of exosomes
(「画期的な」発見はエクソソームの真の生物医学的可能性を解き放つかもしれない)
2025.4.15 Virginia Tech News

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