No 46 犬の健康に関する話題3題
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米国の犬の99%以上が行動問題を抱えている ~ Texas A&M University
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子犬期の認知テストが成犬の行動を予測する ~ University of Helsinki
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DENND1B遺伝子が犬と人間の肥満に関わっていることが判明 ~ University of Cambridgeなど
1. 米国の犬の99%以上が行動問題を抱えている ~ Texas A&M University
Dog Aging Projectには、20を超える研究機関や獣医教育病院の専門科学者や研究獣医師が参加しており、中核拠点は、ワシントン大学とテキサス A&M 獣医学部および生物医学科学部にを置かれている。
この研究では、Dog Aging Projectによって収集されたデータを使用し、現在までに、あらゆる背景を持つ5万頭以上(論文では43,517頭とあり、論文投稿後記事発表までに増えた可能性がある)の犬がこの研究に参加している。
飼い主は28項目の行動アンケートに0~4(4が最も深刻)のスケールで回答した。
全体として、99.12%の犬が中等度以上の行動問題を1つ以上有していることが確認された。
その上位カテゴリーは、分離または愛着に関連する行動 (85.9%)、唸り声や咬みつきなどの攻撃行動 (55.6%)、恐怖や不安に関連する行動 (49.9%) であった。
大多数の回答は、犬に多くの問題がなく、存在する問題行動は比較的軽微であることを示唆している。飼い主はそれらを対処する価値のある問題とは見なさないかもしれないが、ほとんどの犬の飼い主は、少なくとも不便な行動に遭遇するであろう。
この研究から明らかなのは、犬の行動は犬の飼育において重要な要素であり、軽度の問題が深刻化しないように飼い主と獣医の両方が注意深く考慮する必要があるということだ。
この調査には以下のような限界もある。
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行動カテゴリの定義が重複・曖昧
多くの行動が異なるカテゴリに重複している。たとえば不安と分離は関連する行動であることが多いが、それらに関する質問は別のカテゴリに入れられた。犬は恐怖から攻撃的な行動をとることもあるが、これもそれぞれ別のカテゴリに入れられた。そのため、恐怖で噛む犬は結果では明らかではない可能性がある。 -
質問項目の臨床診断としての限界
「本研究で用いた質問項目は診断を目的としたものではない」 と、行動傾向のスクリーニングであり、臨床的な確定診断を行うものではないことが述べられている。 -
回答スケールの主観性
具体的な評価基準は提示されておらず、飼い主の主観によって評価の程度が変わる可能性がある。 -
行動の発現状況に関する時点のばらつき
回答には時間的な一貫性がない可能性がある。行動が過去のものである場合、記憶や重要度に左右される。
「犬が診察室を出るときに誰かを噛めば飼い主は話すかもしれないが、3ヵ月前のことなら言わないかもしれない。」
臨床的意義
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過去の研究によると、行動問題の有病率が高いにもかかわらず、診察時に行動について質問する獣医師は約50%にとどまっている。
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事前アンケートの活用により、見逃されがちな問題行動の把握が可能になり、初期対応を促すための指標となる。
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獣医療従事者が定期診療で行動面の問診を組み込む必要性。
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獣医師には、環境要因の評価と犬のボディランゲージに関する飼い主への教育が求められる。
研究成果は、Journal of Veterinary Behaviorに掲載された。
論文タイトル:The prevalence of behavior problems in dogs in the United States
J Vet Behav (IF: 1.98; Q4). 2024 Nov–Dec;76:34-39. doi:10.1016/j.jveb.2024.11.001
出典:More Than 99% Of US Dogs Have A Behavior Problem, Texas A&M Researcher Finds
2025.4.1 Texas A&M University, Texas A&M Stories
2. 子犬期の認知テストが成犬の行動を予測する ~ University of Helsinki
論文タイトル:Puppy (3–7-month-old) cognitive tests as predictors of adult dog cognition and behaviour
Appl Anim Behav Sci (IF: 2.45; Q3). 2025 May;286:106599. doi: 10.1016/j.applanim.2025.106599
Highlights
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認知機能テストの結果は、子犬から成犬になるまで中程度に安定していた。
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子犬の認知テストの得点は成犬の日常行動を予測する可能性がある。
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人間のジェスチャーに従う子犬の能力は、成犬になってからの訓練性を予測した。
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子犬のシリンダーテスト( 運動抑制制御、衝動性)の成績は、成犬のエネルギーレベルと衝動性を予測した。
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解けない課題での子犬の行動は、成犬になってからの見知らぬ人への恐怖を予測した。
愛犬の行動や性格を早くから知ることができたら、飼育や訓練にどれほど役立つだろうか?フィンランドのヘルシンキ大学の研究チームが行った最新の研究によると、3~7ヵ月齢の子犬に対する簡単な認知テストが、その犬が成長した後の行動特性を予測できることがわかった。
この研究では、99頭の犬を子犬期と成犬期の両方でテストし、さらに227頭については子犬期にテストを受けた後、成犬になってから飼い主がアンケートに回答した。テストには、円筒の周りを迂回する能力(シリンダーテスト)、人間の指示に従う能力(ジェスチャーテスト)、障害物を迂回する能力(V字迂回テスト)、解決できない問題に直面したときの行動(解決不可能課題)などが含まれていた。
研究の結果、子犬の時に示した特性の多くが、成犬になっても中程度に安定していることがわかった。特に、人間の指示に従う能力、問題解決能力、社交性、探索意欲、活動レベルなどは、子犬期から成犬期にかけて比較的一貫していた。一方、衝動を抑える能力(抑制制御)は年齢とともに向上することもわかった。
興味深いことに、子犬期の一部の認知テスト結果は、成犬期の日常行動を予測することができた。例えば、人間の指示に上手に従える子犬は、成犬になっても訓練しやすい傾向にあった。また、抑制制御が低い子犬(衝動的な子犬)は、成犬になるとエネルギーレベルが高く、より衝動的な傾向があった。
さらに重要なのは、子犬の頃に見知らぬ人に対して恐怖を示した犬は、成犬になっても同様の恐怖を示す可能性が高いことである。この発見は、早期から適切な社会化と訓練を行うことの重要性を強調している。人への恐怖は、成犬での攻撃行動につながることがあるため、早期発見と対応が非常に重要である。
この研究は、子犬の頃から行動の傾向を知ることで、飼い主が早い段階から個々の犬に合った訓練や管理方法を選ぶのに役立つ可能性を示している。例えば、衝動的な子犬には衝動制御のトレーニングを、とても独立心の強い子犬には人との協力を促す訓練を、逆に人に依存しすぎる子犬には自立を促す訓練を取り入れると効果的かもしれない。
ただし、この研究にはいくつかの限界もある。参加した犬の多くはドッグスポーツに参加する活発な犬であり、一般的なペット犬の代表とは言えない可能性がある。また、深刻な行動問題を持つ犬は少なかったため、より深刻な問題行動に対しても同じような結果が得られるかは不明である。
これらの限界はあるものの、この研究は子犬の認知テストが、将来の問題行動を予防する上で有用な情報を提供できることを示している。早期に犬の傾向を知ることで、飼い主は問題が発生する前に適切な訓練や環境調整を行うことができる。
飼い主としてできることは、子犬の頃から多様な環境での社会化を進め、基本的なトレーニングを行い、犬の行動傾向を観察することである。子犬が特定の状況で示す反応(見知らぬ人への恐怖、衝動的な行動、問題解決の方法など)に注目し、必要に応じて獣医師や認定トレーナーに相談することを勧める。
この研究は、犬の行動は生後数ヶ月の段階から予測可能な部分があることを示しており、早期からの適切な理解と対応が、幸せで調和のとれた犬と飼い主の関係を築く鍵となることを教えてくれている。子犬の時期は、将来の行動を形作る重要な時期なのである。
この研究の結果は、子犬の認知テストが将来の行動予測に役立つ可能性を示しているが、実用化に向けてはさらなる研究が期待される。例えば、これらの認知特性がいつ安定するのか、発達とともにどのように変化するのかをより詳細に調査することが必要である。3~7ヵ月齢の間でも、年齢によって予測精度に違いがあることがわかっており、より最適なテスト時期を特定できる可能性がある。
また、様々な犬種や飼育環境での検証も重要である。犬種によって認知発達や行動特性に差があることが知られており、品種特有のパターンを明らかにする研究が役立つであろう。家庭犬、作業犬、ショードッグなど異なる役割を持つ犬での比較も興味深い方向性である。
実践的な面では、これらのテストを一般の飼い主や専門家がより簡単に利用できる形に発展させることが考えられる。例えば、動物病院や子犬教室で実施できる簡易版テストの開発や、結果に基づいた具体的なトレーニングプログラムの確立などが役立つであろう。
子犬の認知テスト結果に基づいた早期介入の効果を検証する研究も価値がある。例えば、衝動制御が低いと判断された子犬に特定のトレーニングを行った場合、実際に成犬期の衝動性が改善するかどうかを調査することで、予防的アプローチの有効性が確かめられるだろう。
最終的には、この研究は犬の幸福と飼い主との良好な関係促進に貢献することが期待される。子犬期に潜在的な課題を特定し、適切な対応を行うことで、将来的な問題行動を減らし、犬と人間の共生をより豊かにする道筋が見えてくる。飼い主、繁殖者、トレーナー、獣医師などが協力して取り組むことで、犬たちのより良い未来につながる重要な一歩となるだろう。
3. DENND1B遺伝子が犬と人間の肥満に関わっていることが判明 ~ University of Cambridgeなど
愛犬の体重管理に悩んだことはありませんか?
特にラブラドール・レトリバーは食欲旺盛で、体重管理が難しい犬種として知られている。最新の研究で、この「食べ過ぎてしまう傾向」には遺伝子が大きく関わっていることが明らかになった。
ケンブリッジ大学の研究チームは、241頭のイギリスのラブラドール・レトリバーを対象に全ゲノム関連解析(GWAS)を実施。その結果、「DENND1B」という遺伝子が犬の肥満に最も強く関連していることを発見した。この遺伝子は人間にも存在し、人の肥満にも関連している。
何が分かったのか?
この研究では以下のことが明らかになった:
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DENND1B遺伝子の特定の変異を持つ犬は、持たない犬よりも約8%も体脂肪率が高い
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この遺伝子は脳内のレプチン-メラノコルチン経路(エネルギーバランスを調節する重要な経路)に直接影響する
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遺伝的に肥満リスクが高い犬は、餌をねだる行動が多く、食べ物への執着が強い
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犬の肥満に関連する他の遺伝子も4つ発見されたが、DENND1B遺伝子ほど強い影響は持たない
飼い主として知っておくべきこと
重要なのは、遺伝的リスクが高い犬でも、飼い主による厳格な食事・運動管理によって、肥満を防げることが示されたことである。研究代表者のEleanor Raffan博士は「痩せている犬の飼い主が道徳的に優れているわけではない。痩せている人についても同じことが言える。」と述べている。
肥満リスクの高い遺伝子を持つ犬は、食べ過ぎないようにするために特別な注意が必要なのである。
対処法
遺伝的に食欲が強い犬の飼い主ができることとして:
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1日の食事を数回に分ける
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パズルフィーダーを使って食事時間を延ばす
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庭に餌を散らして探させる
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より満足感を得られる栄養バランスの良いフードを選ぶ
研究の意義
この研究は「肥満の遺伝的基盤」を理解する上で重要な一歩となった。犬と人間の肥満には共通するメカニズムがあり、この発見が将来的に肥満治療法の開発に貢献する可能性がある。
Raffan博士は「この研究は犬と人間の遺伝的な類似性を示している。犬の研究によって、脳が私たちの食行動とエネルギー利用をどのように制御しているかについての理解が大きく前進した。」と述べている。
肥満は犬の健康問題の原因となるすが、この研究は「太りやすさ」には遺伝的要因があることを教えてくれる。飼い主として大切なのは、愛犬の体質を理解し、適切な管理をすることなのである。
出典
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Scientists identify genes that make humans and Labradors more likely to become obese
2025.3.6 University of Cambridge, News -
Study reveals obesity gene in dogs that is relevant to human obesity studies
2025.3.6 EurekAlert! -
Canine genome-wide association study identifies DENND1B as an obesity gene in dogs and humans
Science (IF: 47.73; Q1). 2025 Mar 28;387(6741):eads2145. doi: 10.1126/science.ads2145.
PMID: 40048553

DENND1Bをはじめとするイヌの肥満遺伝子は、ヒトの肥満とも関連していた。(1)視床下部のメラノコルチン受容体(MC4R)のリガンド活性化後、DENND1Bは(2)アダプタータンパク質2(AP2)およびRAB35と結合し、(3)クラスリンを介したエンドサイトーシスを開始し、その過程で受容体は(4)非活性化され、DENND1Bの発現とエネルギー恒常性の制御との間にメカニズム的な関連性が示された。ExWAS、エクソームワイド関連研究、SCOOP、Severe Childhood Onset Obesity Project、SOPP、Severe Obesity in Pakistani Population、MSH、メラノサイト刺激ホルモン。
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