No 47 アトピー、重症熱性血小板減少症候群

イヌアトピー性皮膚炎、ネコアトピー症候群、重症熱性血小板減少症候群
M Tsuda 2025.04.10
誰でも
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  • イヌアトピー性皮膚炎におけるlokivetmab (Cytopoint®)の長期使用 ~ Zoetisからの報告

  • ネコアトピー症候群による中枢神経系への影響を示した初めての症例報告

  • 重症熱性血小板減少症候群の猫の尿:潜在的な感染源

  • 重症熱性血小板減少症候群の感染が発生しやすい環境を解明 -野生動物と人間の活動域が交わる境界では特に注意が必要

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1. イヌアトピー性皮膚炎におけるlokivetmab (Cytopoint®)の長期使用 ~ Zoetisからの報告

論文タイトル:Long term use of lokivetmab (Cytopoint®) in atopic dogs
BMC Vet Res (IF: 1.83; Q1). 2025 Mar 26;21(1):203. doi: 10.1186/s12917-025-04645-8.
PMID: 40133889

lokivetmab (Cytopoint®)は、アレルギー性およびアトピー性皮膚炎の犬の短期治療に有効であることが示されているが、米国のラベル用量(必要に応じて少なくとも2 mg/kg)での長期使用を評価した研究はない。この研究の目的は、イヌアトピー性皮膚炎(CAD)を治療するためにlokivetmabを投与されている犬のコホートを12ヵ月間追跡することであった。

試験デザイン:試験は前向き非盲検介入試験として実施した。米国内8つの皮膚科専門診療施設において、2017年9月1日から2019年4月15日までデータを収集した。研究の公平性を確保するため、単一施設からの症例は全体の25%を超えないよう設定した。

被験動物:この継続試験に含まれた犬は、先行した3ヵ月間の初期試験において、1回、2回、または3回の月1回のlokivetmab注射後にPVAS(飼い主による痒みの視覚的アナログスケール)が36mm未満に減少した犬に限定された。対象犬はすべて、病歴、臨床症状、診断検査に基づくアトピー性皮膚炎の診断基準を満たし、食物有害反応、寄生虫感染、真菌・細菌性皮膚炎、その他の代謝疾患が臨床症状の主要因として除外された。

投与プロトコルと追跡評価:継続試験では、獣医師はlokivetmabを製品表示用量の2 mg/kgで投与し、各症例は飼い主の痒みの評価に基づいて4〜8週間隔で注射を受けた。追加注射は獣医師の診察なしに技術者によって実施されたが、180日目と365日目(±7日)の受診時には獣医師による診察が行われた。
コルチコステロイドフリーおよび抗ヒスタミンフリーの局所製品を研究開始前に使用していた犬は、ワイプ、スプレー、ローションは最大2日に1回、シャンプー/コンディショナーは週1回を最大頻度として継続使用が許可された。また、経口必須脂肪酸やプロバイオティクスの継続使用も許可された。
アレルギー悪化時には、獣医師による診察後に「レスキュー」治療(オクラシチニブ錠、局所抗炎症治療、抗ヒスタミン薬、グルココルチコイドなど)が許可されたが、投与時期とlokivetmab注射時期に関する詳細な指示が設定された。

データ収集:各受診時(180日目と365日目)に、飼い主は電子的なPVAS評価を行い、獣医師はCADESI-4スコアと獣医師皮膚病変視覚的アナログ評価(VetVAS)を完了した。すべてのlokivetmab注射は各症例の投与記録に記録され、期間中に投与されたすべての薬剤も記録した。180日目と365日目の診察は同一施設の獣医師によって実施した。

主要結果

  • 87%(64/75頭)の犬が研究期間を通じて、開始時のPVAS値よりも低いスコアを維持

  • 88%(65/75頭)の犬が研究期間中の平均PVASが36mm未満(有意な改善の指標)を達成

  • 47%(35/75頭)の犬が平均PVASが20mm未満(正常な犬のレベル)を達成

  • 31%(23/75頭)の犬が研究全期間を通じてPVASが36mm未満を維持

  • 67%以上の犬がCADESI-4において50%以上の改善を示した

  • 投与間隔は個々の症例によって異なり、45%が4〜5週間、40%が6〜7週間、15%が7〜8週間の平均間隔で投与

皮膚感染症の発生と管理:試験期間中、21%(16/75頭)の犬が皮膚感染症(ブドウ球菌性膿皮症やマラセチア皮膚炎など)を発症し治療を要したが、これらの犬も研究を完了した。感染症発症時の平均PVASは56mm(範囲37〜84mm)まで上昇したが、治療2週間後には平均21mm(範囲0〜41mm)まで改善した。

飼い主満足度
研究終了時の飼い主アンケートでは、93%がlokivetmabに満足/非常に満足と回答し、91%が犬の痒みが常に/ほとんどの場合同様のレベルまで軽減されたと感じていた。また:

  • 94%が犬のQOL(生活の質)が良好/非常に良好/優れていると報告

  • 87%が以前の治療法と比較してlokivetmabを使用した方が犬の世話が容易だと同意

  • 80%がlokivetma使用中に他の製品使用を減らすことができたと報告

  • 86%が試験後もlokivetmabの使用を継続する予定と回答

臨床的意義

この研究により、lokivetmabはCADに伴う痒みの長期管理に有効であることが裏付けられた。特筆すべき点として、研究期間中いずれの犬も全身性の「レスキュー治療」(オクラシチニブや経口ステロイドなど)を必要としなかったことが挙げられる。多くの犬がlokivetmabを単独治療として使用し、必要に応じて補助的な局所治療のみを追加した。
また、飼い主の介護負担の軽減と飼い主・犬両方のQOL向上が示された。

この研究の限界

  • 利益相反
    著者全員が>lokivetmabの製造販売元であるZoetisの社員であり、研究資金もZoetisから提供されている。この関係は研究デザインや結果の解釈にバイアスをもたらした可能性がある。

  • 研究デザイン上の問題
    - プラセボ対照群や他の抗瘙痒療法との比較がないオープン試験である
    - 盲検化されていない
    - 最初からlokivetmabに反応した犬のみを対象としており、効果がなかった犬は除外されている

  • 再投与間隔の変動
    飼い主の判断による4〜8週間の範囲内での再投与頻度の変動があり、一貫した痒みのコントロールが難しかった可能性がある

  • アレルゲン特定の不統一
    全症例でアレルゲン同定検査(皮内テストや血清検査)が実施されておらず、アレルゲン回避などの補助的治療が十分に行われていない可能性がある

  • 対象犬の選択バイアス
    慢性皮膚炎の既往がある犬の飼い主のみが含まれており、急性または短期間のアレルギー性疾患を持つ犬の飼い主とは期待値が異なる可能性がある

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2. ネコアトピー症候群による中枢神経系への影響を示した初めての症例報告

論文タイトル:Feline atopic syndrome: An insight into its effects on the central nervous system through vestibular disease
(ネコアトピー症候群: 前庭疾患による中枢神経系への影響についての洞察)
Can Vet J (IF: 1.01; Q3). 2025 Apr;66(4):396-401. doi:なし
PMID: 40170943

2歳の雄のアビシニアン猫が、生後4ヵ月から始まった左頭位傾斜、嗜眠、左旋回傾向を伴う強迫的歩行、内側斜視、瞳孔光反射遅延、腹部丘疹、重度の瘙痒症で受診した。画像診断で左耳に鉱物性混濁病巣が認められ、磁気共鳴画像で不均一な信号変化が確認されたことから、内耳炎と診断された。脳脊髄液検査では異常所見は認められなかった。プレドニゾロン、抗生物質、低アレルギー食、プロバイオティクスによる治療により、皮膚の問題は消失し、神経学的改善がみられた。5ヵ月以上経過しても頭部傾斜が持続していたにもかかわらず、プレドニゾロン治療を漸減しても重度の神経症状は再発しなかった。

重要な臨床メッセージ:これは、ネコアトピー症候群が中枢神経系に及ぼす潜在的な影響を示す最初の症例報告である。この論文は、ネコアトピー症候群を単なる皮膚疾患以上のものとして捉えることの重要性を強調している。

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3. 重症熱性血小板減少症候群の猫の尿:潜在的な感染源

論文タイトル:Urine of Cats with Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome: A Potential Source of Infection Transmission
Pathogens (IF: 3.02; Q1). 2025 Mar 5;14(3):254. doi: 10.3390/pathogens14030254.
PMID: 40137739

宮崎大からの報告

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、SFTSウイルス(SFTSV)の感染によって引き起こされ、東アジアの風土病として新たに出現した致死的なマダニ媒介性人獣共通感染症である。SFTSはマダニ媒介性疾患であるが、マダニに咬まれることなくSFTSに罹患した動物からウイルスに感染する可能性がある。
日本では、ヒトのSFTS患者数が年々増加している。また、SFTSに感染した動物の診察や世話をする人の二次感染も懸念されている。重大な問題は、SFTSに罹患した動物から獣医師へのSFTSVの感染経路が明らかでないケースがあることである。

SFTSV RNAは、ネコ、イヌ、フェレットの尿から検出されている。しかし、ウイルスRNAが検出されたからといって、それが感染源であるとは限らない。感染性ウイルスが尿中に存在するかどうかを調べるには、感染性ウイルスを分離する必要がある。この研究で尿に注目したのは、尿が他の体液に比べて多量に排泄されるからである。正常なネコとイヌの尿量は、それぞれ10~20 mL/kg/日と20~100mL /kg/日である。
SFTSに罹患したネコ8匹とイヌ2頭の尿からSFTSウイルスが分離できるかどうかを調べた。
SFTSを発症した猫は尿量が減少する可能性があるが、体重5 kgの猫では50~100 mL/日の排尿がある。この研究では、25 μLの尿から2~10 FFUの感染性SFTSVが検出された。つまり、4×10^3~4×10^4 FFU/日の感染性SFTSVが排出されることになる。したがって、SFTSVに感染したネコの尿はヒトや動物への直接的な感染源となる可能性がある。獣医療従事者は、外傷やSFTS感染猫の血液に触れていないにもかかわらず、SFTSVに感染している。猫の尿に含まれるSFTSVが眼などの露出した粘膜に侵入する可能性がある。獣医師は、SFTSが疑われる猫を診察する際には、マスク、ゴーグル、手袋などの個人防護具を着用すべきである。また獣医師は、SFTSに罹患している猫の世話をする人に、猫の尿で汚染される可能性のある物質を取り扱う際には、個人用保護具を着用するよう指導すべきである。SFTSVの空気感染の可能性は排除できないため、換気も行うべきである。

当研究室で行ったRT-PCRとELISAにより、5組の同居猫でSFTSVの同時感染が確認された。これらの同居猫はほぼ同時期に異なるマダニからSFTSVに同時感染した可能性がある。しかし、SFTSに感染した猫から同居猫にSFTSVが直接感染した可能性も否定できない。SFTSVに感染したヒトから他のヒトへの非マダニによる直接感染も報告されている。猫はヒトよりもSFTSVに感染しやすいため、猫から猫へのSFTSV感染がないと考えるのは難しいかもしれない。忌避剤の使用と猫のSFTSV感染率に有意差はなかったとの報告がある。SFTSを発症した猫から猫へのダニ以外の直接感染も一定の割合で含まれているとすれば、忌避剤の使用と感染率に有意差がないことも理解できる。猫から猫への感染は、猫からヒトへの直接感染のリスクに加え、ヒトの環境に生息するマダニにおけるSFTSVの有病率を増加させるため、猫におけるSFTSV感染を抑制することは動物の健康のみならず公衆衛生上も重要である。

SFTSV流行地域では、マダニやSFTS感染動物との接触を避けるため、猫を室内で飼う必要がある。しかし、猫を放し飼いにしたがる飼い主がいること、猫が脱走することがあること、飼い主がはっきりしない地域猫や野良猫が一定数いることなどから、この問題は簡単には解決しない。ペットやヒトのSFTSを制御するためには、市民や猫の飼い主のSFTSに対する認識が重要である。本研究により、SFTSに罹患した猫の尿に触れることで、飼い主や獣医師がSFTSVに感染する可能性が示された。しかし、SFTSに罹患した猫の尿からの直接感染が実際に起こるのか、また健康な個体で感染を成立させるために必要なウイルスのFFU数はどのくらいなのかは、依然として不明である。これらの問題を解明するためには、さらなる研究が必要である。可能性のあるウイルス感染経路を解明し、感染リスクを低減するための対策を講じることは公衆衛生上重要である。

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4. 重症熱性血小板減少症候群の感染が発生しやすい環境を解明 -野生動物と人間の活動域が交わる境界では特に注意が必要

マダニが媒介する病気(マダニ媒介性感染症)のほとんどは、ワクチン等による予防体制が整っていない。そのため、マダニ媒介性感染症については、できる限り感染しないことが重要である。2013年に国内で初めて発生した新興感染症の重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、厚生労働省によれば、致命率は27%とされており、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスによる感染症の致命率より遥かに高く、危険なマダニ媒介性感染症と言える。

SFTSについてはこれまで、マダニや動物から病原体であるウイルスが検出されるか、それに加えて動物については感染したことを示す抗体を保有しているかについて調査が行われてきた。しかし、SFTSの感染を避けるためには、どのような場所でSFTSの患者が発生しているのかを特定し、場所ごとのリスクに応じた対策を行う必要があるが、日本を含めSFTSの感染が生じている東アジア各国においてもSFTSの患者が多くなる環境条件は未解明である。

本研究では、SFTSの患者の推定感染地点が得られている地域で、患者がSFTSに感染したと推定される地点の環境条件を調べた。SFTSの患者発生に影響する環境条件として、1.森林と開けた場所の境界(林縁)の長さ(動物と人間が出合いやすくマダニも多い)、2.気象条件(暖かい場所や湿潤な場所では野生動物やマダニが増えやすい)、3.人間の活動の活発さ(観光地の数、農地の割合、人口)、4.野生動物の多様性(過去の研究で、野生動物種の多様性が高い方が特定の種類のウイルスが増えにくい仮説が提唱されていることから)を調べた。これらの複数の要因とSFTSの患者数との関係を、統計モデルで解析した。

解析の結果、SFTSの患者は林縁が長く(図)、気候が温暖な場所ほど多いことが明らかになった。一方、降水量や人間の活動の活発さ、野生動物の多様性は、明確な影響が検出されなかった。これらの結果から、野生動物やマダニと人間の活動域が重なりやすい林縁は、特にSFTSに感染するリスクが高いことが示された。

本研究で示されたSFTSに感染しやすい環境のイメージ(赤の太い線)

本研究で示されたSFTSに感染しやすい環境のイメージ(赤の太い線)

研究成果は、EcoHealthに掲載された。
論文タイトル:Forest fragmentation and warmer climate increase tick-borne disease infection
(森林の分断化と気候温暖化がマダニ媒介性疾患の感染を増加させる)
Ecohealth (IF: 3.18; Q2). 2025 Mar;22(1):124-137. doi: 10.1007/s10393-025-01702-4.
PMID: 39864039

出典:高致命率のマダニ媒介性感染症SFTSの感染が発生しやすい環境を解明
-野生動物と人間の活動域が交わる境界では特に注意が必要-
2025.4.8 森林研究・整備機構 森林総合研究所、札幌東徳洲会病院 共同プレスリリース

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