No 50 企業動向(4件)、米国でのブロイラーの繁殖率低下の予測

企業は国内4社、海外2社です。提携が2件、企業技術の紹介が2件です。
M Tsuda 2025.05.03
誰でも
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  •  ゼウレカ、ファンペップにAI創薬研究支援

  •  スカイファーマの技術

  •  AmacaTheraとMerck Animal Healthが獣医療分野で提携

  •  エクソソーム/細胞外小胞技術の事業化に向けた取り組みを開始 ~ H.U.グループ中央研究所

  •  ニワトリの繁殖率が長期的に低下するとの予測 ~ Texas A&M University

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1. ゼウレカ、ファンペップにAI創薬研究支援

三井物産の子会社であるXeureka(ゼウレカ)は4月23日、ファンペップ(茨木市)と、将来的な両社間での共同研究に向けてAI創薬支援コンサルティング契約を締結し、特殊ペプチド(非天然アミノ酸を含む環状ペプチド)のAI創薬研究の支援を開始した。
ゼウレカは、2024年8月からファンペップとの研究委託契約に基づき抗体誘導ペプチドのAI創薬研究支援を実施している。

抗体誘導ペプチドは、患者の体内で標的タンパク質に対する抗体産生を誘導することにより治療効果を期待するペプチド治療ワクチンである。ファンペップは、様々な標的タンパク質に対する抗体誘導ペプチドの候補化合物を創出することにより研究開発パイプラインの強化を図っている。

中分子医薬品(分子量:1~3千)であるペプチド医薬品は、低分子医薬品では結合できない標的分子を対象とすることができること、さらに特殊ペプチド(非天然アミノ酸を含む環状ペプチド)医薬品は、高分子医薬品より安定性や組織浸透性が高いことなどから、従来のモダリティ(創薬技術)では狙えない標的分子を対象にする創薬研究が可能であり、次世代のモダリティとして期待されている。

ファンペップは今回、特殊ペプチドを用いた創薬分野の研究を拡大するため、mRNAディスプレイ法を活用した特殊ペプチドの探索サービスを提供する富士フイルム和光純薬と特定の標的分子に強く結合する特殊ペプチドを探索する研究委託契約を締結した。

出典

ゼウレカについては、Animal Health News 2023年下期号 p3 「三井物産が創薬向けにスパコン活用を支援 アステラスや小野薬品が参加」参照

2.  スカイファーマの技術

東北大学発のスタートアップ、スカイファーマ(仙台市)の4月24日付プレスリリース『東北大学と共に次世代再生医薬品の実用化を目指すスカイファーマ株式会社が「宮城を代表する企業100選」に選出-新しい概念に基づいた創薬プラットフォーム Z-FIT』中に、
2019年に創業し、2020年より東北大学と共同研究で低分子再生活性化医薬品の開発を行っている。ゼブラフィッシュの「運命地図」に基づいた局所注入法「Z-FIT (Zebrafish Fate-map Injection Technology)」を開発し、新しい概念に基づいた表現型(フェノティピック)スクリーニングを行い、すでに脊髄損傷や認知症などの疾患モデル動物で効果を示す候補化合物を特定。今回、このZ-FITの独創性が高く評価され、宮城県を代表する企業に選出された。
との記載があったので、同社の技術内容を紹介する。

Z-FITは、ゼブラフィッシュ胚の特定部位に微量の化合物を局所注入する技術である。この手法により、従来の薬浴法で指摘されていた偽陰性の出現や毒性評価の不正確さ、大量の化合物使用に伴うコストといった課題を克服したとされる。

ゼブラフィッシュはヒトと約82%の疾患遺伝子を共有しており、Z-FITによるスクリーニングで得られたほぼ全てのヒット化合物がまず最初にゼブラフィッシュの疾患モデルで、次に齧歯類モデルにおいても明確な治療効果を示しているという。特に「個体発生」と「成体再生」という異なるプロセスにおける幹細胞活性化の共通点に着目した技術構築は、再生医療への新たな道を拓いたとする。

前述の脊髄損傷や認知症以外にも、緑内障、糖尿病など現在有効な治療薬がない疾患においても、Z-FITから得られた低分子化合物が再生医療の可能性を示しており、特にこれらのヒット化合物の中には再生医療へのリポジショニングも可能な既承認医薬品もあるとのことである。

2022年2月のニュースサイト「TOHOKU360」のPR記事中には、
まず脊髄損傷の分野を主な事業として取り組み、新薬の承認と販売にもっていく。緑内障、心筋症、糖尿病の膵臓の再生などにも研究段階だが成功しているので、こういう分野では大手企業にライセンスアウトして、メインの脊髄損傷分野に還元していきたい。
緑内障では、齧歯類モデルに点眼により10日間で網膜が再生した。
と記載されている。

オープンイノベーションを目的とした企業が登録する日本最大級のプラットフォーム「AUBA」の2024.9.17付の情報では、
脊髄損傷と認知症の齧歯類モデル動物で改善効果を発揮する低分子化合物を保有しており、非臨床試験に向けた共同研究または協業パートナーを募集中、とある。

同社サイトには、具体的なパイプラインの情報はないが、特許について9件の記載がある。
J-Plat Patで検索すると、9件の内5件は見当たらず、3件(1件重複)が見出された。
このうち、特許7054289の分割出願第一世代特許、特開2022-037144「未分化細胞の自己複製及び/又は分化誘導のために用いられる医薬組成物」(審査中、拒絶通知発出)には、具体的化合物7種の構造式が示されており、ruxolitinib(JAK1/JAK2 インヒビター)、midazolam(ベンゾジアゼピン受容体作動薬、ALK5 inhibitor)、L-グルタミン、カプサイシン(HDAC inhibitor)、bromfenac (NSAID, GSK-3 inhibitor)、rivastigmine(コリンエステラーゼ インヒビター、ALK inhibitor)、imatinib(チロシンキナーゼ インヒビター、ALK inhibitor)と推定される。
これらの化合物は、幹細胞の自己複製や全能性維持または分化・発生誘導に関わるシグナル伝達経路(Notchシグナル経路、PI3K/AKT/mTORシグナル経路、JAK/STATシグナル経路、MAPKシグナル経路、TGFβ/SMADシグナル経路、Wntシグナル経路)に作用するものに集中している。これらのシグナル経路は幹細胞の自己複製と分化誘導の制御に関連しているものである。

3. AmacaTheraとMerck Animal Healthが獣医療分野で提携

薬物送達を専門とする臨床段階のバイオテクノロジー企業であるAmacaThera (Toronto, ON、Canada)は、動物医療分野における長時間作用型製剤の開発に向け、Merck Animal Healthと拘束力のある評価およびオプション契約を締結したことを発表した。

AmacaThera独自のハイドロゲルプラットフォーム技術であるAmacaGel™を基盤とするAmacaTheraの開発製品は、単回投与による治療薬の持続的な送達を強化するように設計されており、獣医学における動物のケアと福祉に革命をもたらす可能性がある。

AmacaTheraのCEOであるMike Cooke博士は、「この協業は、当社の製造ノウハウとハイドロゲルプラットフォームから得られたヒトにおけるデータに基づいており、注射剤の投与における課題に対する効果的なソリューションを迅速に開発することを可能にする。」「当社のハイドロゲルの特長は、様々な薬剤との幅広い適合性、そして製造プロセスが明確で、販売可能かつ費用対効果が高いことである。」と述べている。

AmacaThera独自のAmacaGel™プラットフォームは、2種類の確立されたポリマーから構成される、速効性ゲル化物理ハイドロゲルです。せん断力を受けて液化するように設計されたAmacaGelは、従来の注射器で投与でき、体温に達すると急速にデポを形成する。このプラットフォームの主力製品であるAMT-143は、AmacaGel™テクノロジーを活用した、術後の長時間作用型鎮痛剤である徐放性非オピオイド局所麻酔薬で、現在ヒトで、第II相臨床試験に進んでいる。

4.  エクソソーム/細胞外小胞技術の事業化に向けた取り組みを開始 ~ H.U.グループ中央研究所

H.U.グループホールディングスの連結子会社である合同会社H.U.グループ中央研究所(東京都あきる野市、以下「H.U.中央研究所」)は、独自に開発したエクソソーム/細胞外小胞(EVs: Extracellular Vesicles)の回収および解析技術である「EViSTEP®」を、グループ会社であるH.U.セルズに技術移管し、同社での事業化に向けた取り組みを開始した。H.U.セルズは、この技術を活用し、2025年度内に新たなサービスの提供を開始する予定である。

従来、血液などの検体からEVsを回収し解析することは、精製度や低収量のために困難とされてきた。この課題を解決するため、H.U.中央研究所はEViSTEP®を開発し、あらゆる種類の検体からEVsを高い精製度および高収量で回収することに成功した。これにより、EVsの解析における新たな可能性が広がり、今後の研究や医療分野での応用が期待される。

新たなサービスでは、血液や体液、培養上清に含まれるEVsを、EViSTEP®を用いて効率的に分離回収し、網羅的な分子解析を提供する。さらに、これらの解析によって得られた候補分子を定量測定するために、ルミパルス®L2400を用いたEVs定量や、核酸などの定量解析サービスもラインナップし、EVsの回収から解析までをOne Stop Solutionで提供する。

EViSTEP®の詳細については以下を参照
https://www.hugp.com/research/exosome_JA.html

※ H.U.グループホールディングス(旧社名 みらかホールディングス)は、富士レビオ、エスアールエルなどを傘下に持つ。

5. ニワトリの繁殖率が長期的に低下するとの予測 ~ Texas A&M University

新しい研究によると、米国のブロイラー卵における鶏の受胎率は、2050年までに約60%まで低下する可能性がある。この減少は鶏の生産問題と消費者のコスト上昇につながる可能性がある。

繁殖力の傾向を評価するため、研究者たちは2013年から2022年までの米国農務省全米農業統計サービスのデータを分析した。その結果、孵化率、ヒナの生存率、生産効率など、重要な生産指標が著しく低下していることが明らかになった。

この研究は、鶏肉業界では何年も前から話題になっていた憂慮すべき傾向を明らかにしたものである。ブロイラー鶏の卵における孵化率の継続的な低下について、統計的かつ科学的に裏付けされた予測を示している。

より深い分析をサポートするために、研究チームは孵化率と生産指標を組み込んで経時的な繁殖力の傾向をモデル化するツール、Broiler Breeder Performance Indexを開発した。この研究では、管理方法や遺伝的選抜戦略など、潜在的な要因も調査している。

研究成果は、Poultry Scienceに掲載された。
論文タイトル:How concerned should we be about broiler breeder fertility declines?
(ブロイラー種鶏の繁殖力の低下について、我々はどの程度懸念すべきか?)
Poult Sci (IF: 2.66; Q1). 2025 Mar 7;104(5):104992. doi: 10.1016/j.psj.2025.104992.
PMID: 40073637

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